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定光寺駅〜崖っぷちの駅(1)


定光寺駅全景

定光寺駅(中央本線・中央西線)。庄内川の
渓流沿いの急斜面にある。113系電車が
通過中。
 幼い頃の定光寺駅の印象は私の記憶の中にしっかりと焼き付いている。20年以上前、小学校の遠足で定光寺に来たのだが、崖にへばりついたような立地で、下りホームが異様に狭い、崖に板を載せたような上りホームが高い所にある、名古屋近郊なのに、山中のような景色…。その時、定光寺で何をしたか、何があったかなど、他の記憶は一切無いのだが、定光寺駅の記憶だけは何故か鮮明に残っている。

 隣りの古虎渓駅から、上り列車に乗り、県境を越え、定光寺で下車した。やはりあの時のように、山に囲まれ、眼下の庄内川の流れを一望できる自然豊かな景色があった。この一帯は愛知高原国定公園に指定され、名古屋の奥座敷とも言われている。駅名にもなった定光寺とは臨済宗の古刹で、尾張藩祖の徳川義直が眠る廟もある。

 日曜日でハイカーなど行楽客がいるとは言え、やけに賑やかだ。古虎渓寄りの階段を下ると、やはり賑やかで、無人駅のはずなのに制服姿の係員が居て、テントではお土産屋が出店している。ノボリを見ると「さわやかウォーキング」と出ている。今日はJR東海が主催ウォーキングイベントの日のため、係員がやって来ているのだ。現地集合現地解散で、運賃だけで参加でき、中高年の登山、ウォーキング、トレッキング人気のため、それらの年代の人々を中心に賑わっている。
 
定光寺駅前の民家。

定光寺駅前の集落。この奥に
ホームへの階段がある。

 駅もぎりぎりのスペースなら、駅前の集落も、庄内川と駅のある急斜面に、両側から挟まれたような狭いスペースだ。降りてきた階段が行き止まりで、そこから川沿いに、数軒の家屋が一軒一軒並ぶ。ここにはガスが通ってきていないようで、軒先にはプロパンガスのボンベが並ぶ。以前はこの中の店が、切符の委託販売をしていたのだが、今日は開いていない。日曜日は稼ぎ時の筈で、しかも今日はさわやかウォーキングの日なのに…。もうやっていないのだろうか。

 集落の細い道を抜けると、曲がり角がある。真っ直ぐ行くと、料亭旅館の千歳樓があり、この辺りでは一番大きな建物だ。そして左に曲がると橋があり、対岸に行ける。そのまま真っ直ぐ坂を上がると定光寺だ。

 対岸から駅を見渡す。崖を切り開き線路が通り、その途中に駅がある。駅前の集落と千歳樓以外、駅周辺は緑に包まれ、駅は崖にへばりつくように崖っぷちに存在している。このような立地の路線や駅は珍しく無い。だが、中央西線の多治見以遠、太多線沿線は宅地開発が進み、中央西線は名古屋方面への通勤通学者などで賑わう都市型の路線となった。そんな中で、異空間のように、ローカル駅の定光寺が存在するのは不思議な感じがする。有名どころで例えると、山陰本線の京都市内の駅、保津峡駅のようなものだ。定光寺駅は名古屋近郊屈指の秘境駅と言えるだろう。
 

定光寺駅上下ホーム通路

地下道のような通路を通って下りホームへ。
 対岸で写真撮影をして、駅に戻ると、先ほど居たJR東海の係員はいなくなり、テントは跡形もなく消えていた。まだ、ハイカーが少し残っているが、駅は徐々にいつもの静けさを取り戻しつつある。

 階段を上がり、駅に降りた時下ってきた上りホームへの階段を上がらず、崖をぶち抜いた地下通路のような下りホームへの通路を歩く。
 

ホームから垣間見える地上

上りホームの間から垣間見える“地上”。
 階段を上がり切ると、真後ろに90度近い崖がそり立つ下りホームに出た。緩くカーブしたホーム2面2線の相対式ホームで、下りホームは上屋の下にベンチが置かれた待合所があるのみだ。ホームはあまり広くなく、ビュンビュンと高速で列車が通過し、上屋は幅が狭く心もとなく、列車待ちや、悪天候やの時は、階段の辺りで待っていた方が安心だろう。

 反対の上りホームは柱など鉄筋にコンクリートの板が組まれた、薄っぺらく見える部分もあり、ホームの下からは先程歩いた“地上”の風景も垣間見える。小学校の遠足であのホームに立った時は、少し恐さを覚えたものだ。
 

細い下りホームを特急しなのが通過

下りホームの名古屋寄りは異様に細く狭い。
特急しなのが高速で通過。

 そして、下りホームを名古屋方に歩くとホームの幅は更に狭まる。ここで列車を待つのはかなり危険で、、かつてこの光景を前に、子供心にそう感じた過去の記憶と自然と一致する。定光寺駅は普通列車しか停まらず、特急しなの、セントラルライナー、快速列車、貨物列車と、通過列車は多い。危険を避けるため、また通過列車の風圧にカメラが煽られないため、体を壁に密着し安定させカメラを構える。ちょうど、特急しなのが猛然と突入し、体が揺さぶられそうになりながら、風圧に耐えた。
 
線路内に迷い込んだ犬

犬が線路内に迷い込む。

 下りホームの狭い部分で、辺りを見ていると、古虎渓方で白いものがうごめいているのが目に入った。目の錯覚か猫だなと思いながら気になり、その方向に歩くと、それは猫ではなく、犬だった。毛並みは乱れ薄汚れている様子を見ると、捨て犬か、迷い犬だろう。だけど、どうやってこの崖っぷちの駅に入り込んだのだろうと思っていると、何と線路の上をトボトボと歩き始めた。危ない!そんな事をしたら、高速で通過する列車に跳ね飛ばされ、血まみれになり体がぐしゃぐやにされ死んでしまう。しかも、列車本数が多くなる夕方だから、その危険性は高い。この崖っぷちの駅に、犬の逃げ道は少なく、猫ならひょいと身軽にホームに上がれそうだが、犬はそうはいかない。
 
レールの横に旧線トンネル跡が見える

名古屋寄りには旧線のトンネルが見える。

 犬好きな私だが、その白い犬が無残な死を遂げるよりかはと思い、心を鬼にして、犬の足元近くに石を投げたり、大きな呼びかけたりして何とかしようとする。だけど、人間のそんな仕打ちに慣れ切ってしまったのか、私のハラハラとした気持ちをよそに、犬はペースも変えず、トボトボと線路上を名古屋方に向って歩いている。

 10分位時間が経ったのだろうか。その間、運良く上下列車とも来なかった。犬は名古屋寄りのホーム端まで歩き、中央本線旧線跡の舗装スペースに辿り着き、危険地帯を脱した。しばらくその場所や奥にあるトンネル跡をうろうろして、犬の姿は消えた。崖上だが、先程、車が停まっていた所を見ると、下に降りる手段が無いという訳ではないのだろう。何はともあれ、白い犬が無事で良かった。

Station Photographs−駅と駅舎の写真館− (C)solano.