Sponsored Link

屋島山上駅(屋島登山鉄道、コンクリート駅舎)


 私が源平合戦の古戦場として有名な香川県高松市の屋島に行こうと思ったのは、NHKで放送中の大河ドラマ「義経」に触発されたから・・・、ではない。屋島登山鉄道(屋島ケーブル)の屋島山上駅の存在ゆえだ。本で屋島山上駅の駅舎を目にし、近未来的でSFに出てきそうな不思議な建物が印象に残り、いつか見たいと思い続けていた。
 屋島は香川県有数の観光地で、見所の多くが地上約300メートルの屋島山上にある。源平合戦に関連した見所の他、四国八十八ヶ所84番札所の屋島寺、水族館、瀬戸内海を望める展望台などもある。それら観光スポットへのアクセスの一つが屋島登山鉄道で、琴電屋島駅最寄の屋島登山口駅と屋島山上駅を結ぶ。
 だが、屋島登山鉄道は経営悪化のため、運行は2004(平成16)年10月15日を最後に休止となってしまった。当初はかなり賑わったというが、有料道路・屋島ドライブウェイの開通やモータリゼーション化に客を奪われ、更に、近年の屋島山上観光の衰退も大きかったようだ。運行最終日は、お別れ乗車をしようという乗客で賑わったというが、電気系統のトラブルのため、運行できなかったというトホホなエピソード付きだ。あくまでも、廃止ではなく休止で、運行を引き継いでくれる事業者を探してるとの事だが、そのような事業者が現れる気配は無く、実質的には廃止と言えるだろう。そのような状態だから、いつ正式に廃止が決定されても不思議ではない。そうなったら、あの屋島山上駅は取り壊されるだろう。本当は運行されている時に、ケーブルに乗って、この駅を訪れたかった。だが、せめて駅舎がある内に、この目で見ておきたい。
 普通、鉄道が廃止されると、代替交通機関としてバス路線が開設される事が多い。だが、屋島山上に向かうバス路線は設定されなかった。いくらモータリゼーションが進んだ社会とは言え、私みたいに公共交通機関で屋島を訪れようとする者には大いに不便で、そのような人々への対策が考慮されない事へ疑問を感じる。
 では、どうやって行こうか方策を探ったが、どうやら、登山道を上るか、タクシーで有料道路・屋島ドライブウェイを通るかしか無いようだ。登山道は整備されていて、歩きやすいらしいが、片道1時間以上も掛かる。タクシー料金は高い上、屋島ドライブウェイの通行料600円が上乗せされ、それが往復分掛かるのは痛いが、タクシーしか選択肢は無いに等しい・・・。

-------
 琴電志度駅から列車に揺られ、琴電屋島駅で降りた。メルヘンチックに塗装された洋風駅舎を抜けると、緩やかな坂があり、坂の先には屋島登山口駅が見える。そして、木々を分け、急峻な屋島を這い上がるような屋島登山鉄道の軌道が見える。この軌道の傾斜角度は日本一とか。坂に何台かのタクシーが停車していたので、先頭の車に乗り「屋島山上駅」までと告げた。走り出して程無くして、屋島ドライブウェイの料金所を通過した。運転士さんが、「ウチは回数券を使ってるから、500円で通れる」と教えてくれ、少し得した気分になったが。タクシーはぐいぐいと坂を登っていき、先程まで街中にいたのが信じられない位の高さで、もう海や街を見下ろしている。
 10分もしない内に、タクシーは屋島観光の拠点となる大駐車場に着いた。ただっ広い駐車場だが、観光オフシーズンの平日のためか、車の数はまばらだ。運転手は、駐車場隅のレストランの前で車を止めた。私は「屋島山上駅≠ワでですが・・・」と言うと、一瞬、きょとんと呆気に取られた表情をした。車が入れるのがここまでと思い「行けないのですか?」と聞くと、そうではないようで、「分かりました」と再びアクセルを踏んだ。
 大駐車場を離れると、緑に覆われた山道のような道路になった。直に着くのだろうと思っていたが、なかなか着かなく、人の気配が無い道路を曲がりくねりながら、どこに行ってしまうのだろうと不安が過ぎる。もちろん、タクシー料金も大いに気になり、メーターと外の景色を交互に目を遣る。
 そう思っていたら、突然、道に立ちはだかるかのように、白いコンクリートの建物が目の前に現われた。「!!!」。写真では感じる事が出来ない強烈な雰囲気に一瞬にして圧倒され、その建物に目が釘付けになった。もう、タクシー料金がどうのと言うケチ臭い思考は、私の頭の中から、完全に飛び去っていた。

屋島山上駅・駅舎。

屋島山上駅。これが駅舎!!
 代金(確か2000円位)を払いタクシーから降りた。ケーブルが休止中となった今、観光客は私以外、誰も居ない。駅前では、ここの住人なのか、中年の男性がのんびりと洗車をしている。放し飼いの犬が見慣れぬ訪問者に感心を示し寄り付こうとする。さすがにたじろぐが、洗車中の男性に窘められると、寄りつくのを止めた。随分といい子だ。
 改めて、屋島山上駅に対峙する。それにしても凄い建物だ。SF映画に出てくるような建物、科学の研究所、白亜の未来的城郭、アニメに出てくる基地…、でも、、前時代的でレトロな雰囲気を漂わす…、何とも表現しがたい、いや、何とでも表現できてしまうような個性的で不思議な駅舎だ。いくつかの四角を組み合せたような形状で、そこからいくつもの庇が伸び出ていたり、大きさの違う窓があったりと、直線的で複雑な形状を作り上げている。出入口横に、小さな丸窓がある。小さいが、直線的な建物の中に埋もれる事無く、結構目立つ。でも、建物に調和し、いいアクセントとなっている。
 屋根からはアンテナのような不思議な棒状の構造物が天に向かって伸びる。棒の周りを複数の輪が囲み、上のリングになるに従い、大きくなる。これはアンテナか、避雷針か、それともただのオブジェだったのか…、元々の設置目的は分からない。ただ、「電波を形にしたらこうなった」といわんばかりの形状は、眠りに就いている駅にあって、未だに何かを発していると感じさせられる強烈なインパクトがある。

 両脇には商店街のように土産物屋が数軒並んでいるが、古びてくすんだ空気を漂わせ、シャッターは閉じられていたりで営業している気配は無い。屋島ケーブルが休止となった今、中心から遠く行き止まりの山上駅は、屋島山上の辺境のようになり、観光ルートから完全に外れ、商売にならなくなってしまったのだろう。1軒の土産物屋をガラス越しに覗いてみると、ショーウィンドーに商品の置物が並んだままだった。古いセンスが漂う商品はたぶん長い間買われる事無く、店頭に並んでいたのだろう。そして、もう観光客に買われる事は無い。未だに整列したまま、寂しく西日を浴びる様が、どこかもの悲しげだ。
 そんな中、駅の左側にある、新しいピカピカの公衆トイレが異彩を放つ。多分、建てられて数年しか経ってないのだろう。隣には、荒れ果てた旧いトイレも残り、古びたものばかりのこの場所で余計に浮いて見える。観光客がほどんど寄り付かなくなった今となっては、この新しさは虚しく映る。大駐車場からここまで、これと言った建物は見当たらず、人も歩いていなく、突然、時代から取り残されたような駅舎と土産物屋が忽然と現われた…。ここだけが、まるで別世界だ。
 駅舎の右手に周って見ると、ロープを張られた軒下に、降車口と書かれた札があった。その先の階段には駅のホームがあり、ケーブルカーの2号機が暗がりの中で静かに眠っていた。乗降分離をしていたようで、車両の両脇に階段状のホームがあり、乗車は駅舎内を通って、降車は駅舎内を通る事無く、外に出ていたようである。降車口の軒下に、駅舎内に入る事が出来る扉もあった。もちろん、今は固く閉ざされているが…。そのドアのノブに何気に目を遣ると、電力会社の「新しく入居される方へ」という書類がぶら下がっていた。ああ、この駅舎はもう棄てられたんだ。

謎のアンテナ

屋根にはアンテナのようなものがある。
駅舎正面の出入口とその付近。

駅出入口は固く閉ざされている。
丸窓

出入口横の丸窓が結構目立つ。
 
駅舎内部

駅舎内部をガラス窓越しに覗く。
駅舎右側面

右側面から駅舎を見る。写真右上はバルコニーで、
その下はケーブルの降車口。
バルコニー

2階にあるバルコニー。讃岐平野を
一望の下にした事だろう。
 
ひっそりと眠るケーブルカー

降車口の階段の先にはケーブルカーが
ひっそりと眠っていた。


営業を止めた土産物屋の商品が虚しく夕日を浴びる。
 
 さっきから気になっていたのだが、廃店舗群の中の1軒の飲食店扉が半開きになっていた。営業は止めたが、まだ住人がいるのだろう。そこから住人と思しき中年の女性が先程の犬を連れて出てきた。散歩の時間のようだが、綱で繋がれてはいなく、犬は息を切らせながら勝手に駆け出し姿をくらましてしまった。だが、女性は焦る事なくのんびりと自転車に乗って後に続く。きっと毎日の光景なのだろう。その中年の女性は白い上着を来ていた。まるで、飲食店や食料品店の店員が来ている制服のような感じで、白という色も、衛生に気をつけるそれらの店を連想させる。普段着と言うには素っ気無く、日常の私生活で好んで着るような服とは思えない。という事は、扉が開いていた店はまだ飲食店として営業しているという事だろうか…。
 名残惜しいが、いつまでもここにはいる訳にいかなく、駅に背を向け歩きだした。でも、駅と距離が開きながらも、何度も何度も駅舎の方に振り帰る。「また、この駅舎と再会できますように!」と、いつの間にか、心の中で願っていた。

 土産物店の前を通りすぎれば、道の両側は打って変わって緑の木々が続く道となり、まるでハイキングでも始まるのかと思ってしまう。でも、光はもう弱々しくなり道は薄暗くなりはじめていた。
 駅舎の姿が見えなくなった頃、さっきの犬が反対側から走ってきて、私に目もくれる事もなく擦れ違い、屋島山上駅の方へ走り去っていった。それから1分程すると、あの中年女性が自転車で私の横を通り、犬が走り去ったのと同じ方向へ消えていった。

[2005年6月訪問](香川県高松市)
 
屋島山上駅の駅前

駅舎と駅前の土産物屋。

Station Photographs‐駅と駅舎の写真館‐ (C)solano