上堀駅(富山地鉄・上滝線)~古き木造駅舎は朝の通勤通学時間帯で大賑わい~



大正に開業した駅の古色蒼然とした木造駅舎

富山地鉄・上滝線・上堀駅、木造駅舎の軒下と古い木製ベンチ

 上堀駅で下車すると、古い木で組まれた軒と柱、そして木製ベンチが目に入った。ベンチは実際に使えるような代物ではない。きっと何十年とこの場所に置かれているのだろう。1本1本、細い木を組んで作られたベンチは歪み、座ると崩れてしまいそうだ。

富山地鉄・古色蒼然とした上堀駅の木造駅舎ホーム側

 駅舎ホーム側にまわると、柱など古い木材に淡いパステルグリーンの塗装の痕が残っていた。元はこういう色に塗られていたのだろうが、今は塗装が風化し、木の質感が露わな古い木造駅舎らしい雰囲気に満ち溢れている。

富山地鉄・上滝線・上堀駅、古く趣ある木造駅舎が残る

上堀駅の木造駅舎はぐるりと周囲に巡らされた軒が印象的だ。駅の開業は1921年(大正5年)4月25日だ。いつ建てられたがはっきり解らないというが、かなり古そうな木造駅舎が残っている。

 窓の多くがサッシ窓に換えられている。木造駅舎の窓がサッシ窓に換えられていると、大抵の場合、趣が落ちゲンナリとさせられる場合が多い。しかし、上堀駅はそのゲンナリ感を補って有り余る程、使い込まれた木が醸し出す雰囲気が味わい深さを感じさせ、十分過ぎるほどの見ごたえがある。

 富山地方鉄道は今日でも個性的過ぎる古い駅舎が多く残っているが、上堀駅の駅舎は他の鉄道会社でよく見られるような標準的な形状に近いと言えるだろう。なので富山地鉄にあっては、かえって貴重なのかもしれない。

富山地鉄・上滝線・上堀駅の木造駅舎、木製の窓枠

 待合室の窓枠はサッシではなく古い木枠のままだ。やはりこの方が一層と趣深く、迫り来るものがある。窓枠や柱などが淡い青色に塗られているのも意外と合っている。形状は標準的とは言え、淡い青色の木造駅舎はハイカラな雰囲気だったのだろう。その辺りは、個性的な駅舎が多い富山地鉄らしさを感じさせる配色だ

富山地鉄・上滝線・上堀駅、木造駅舎と横の空き地

 駅舎正面の岩峅寺方には、草むらと化した空地が広がり、倉庫がぽつんと残っている。2005年にもこの駅に訪れているが、かつてはここに古びた木造トイレがあったのよく覚えている。

富山地鉄・上滝線・上堀駅の木造駅舎、無人駅となり閉じられ窓口跡

 上堀駅の窓口跡は無人駅となり塞がれ壁も一部が補修されているが、それでも昔ながらの有人駅の雰囲気をとてもよく残している。待合室は狭く、朝の通勤通学時間帯を迎え出入りが多くなってきた。邪魔にならないように撮影。

富山地鉄・上滝線・上堀駅の木造駅舎、木目浮く待合室

 多くの人が腰掛け列車を待った作りつけのベンチと木製の窓枠は、使いこまれて古びた木の質感に溢れる。狭い空間に無数の木目が浮かび上がり、この駅の歴史が深く胸に刻まれた心地だ。こんな風景にめぐり合えた時、木造駅舎を旅する醍醐味なのだとしみじみと感じだ。

富山地鉄・上滝線・上堀駅プラットホーム、廃ホームが残る

 今では一面一線だが、廃ホーム跡がまだ残っていた。レールは2面2線の頃の名残で、ホーム手前のかつての分岐点あたりと思われる場所で、ホームに近付こうとぐにゃりと曲がっている。

富山地鉄・上滝線・上堀駅ホーム、構内通路の階段跡

 富山方面のホーム端には、構内通路の階段が残っていた。かつては反対側ホームに続いていたのだろう。

富山地鉄・上堀駅、線路を渡り近道して駅に向かう人

 列車の時間が近付き、駅にまた一人また一人と乗客が増えていく。廃ホームの裏手から人が現れ、レールをまたいでやってくる人が何人もいる。駅正面にまわるよりこちらの方が近道で、こちらを通る人も多く構内通路が無くなった今も、半ば黙認され構内通路として利用されているのだろう。

富山地鉄、朝の上堀駅。富山駅方面に通勤する人々

 富山行きの列車が入線する直前、ホーム上では多くの列車を待っていて驚かされた。ローカル線は高校生など学生の姿ばかりが目立つ事が多いが、背広姿のサラリーマン、OLなども多く、もちろん学生の姿もある。木造駅舎のある駅はどこか寂れた雰囲気になっている事も珍しくないが、趣き深い木造駅舎がこんなに多くの地元の人々で賑わう光景は新鮮でありとても嬉しい。ざっと見ると、30人ほどの人が列車を待っている。その所は、さすが県都・富山市の中心部の方に向かう路線だけの事はある。上堀駅の1日の利用者は約250人と言うので、一日の利用者の約10分の1が次の列車に集中している事になる。だが上滝線の乗客は減少傾向で、通勤通学時間帯以外はほぼ1時間に1本の運行と少ない。

 上滝線にはLRT化し、富山地鉄市内線に乗り入れる構想がある。JR富山港線をLRT化して、富山ライトレールにした富山という地なら実現してしまいそうな気がする。もし実現したならば、上堀駅の古き駅舎は一体どうなているのだろうか・・・?

[2010年9月訪問](富山県富山市)

~◆レトロ駅舎カテゴリー: 三つ星 私鉄の三つ星駅舎