地名駅 (大井川鐵道・大井川本線)~木造駅舎と名物?日本一短いトンネル~



日本一短いトンネル?!

 初めてとなる大井川鉄道の旅で、あれこれと下車し駅巡りを楽しんでいた。

 そして、木造駅舎が残る地名駅で下車ししてみた。

大井川鉄道・地名駅、南海や近鉄の古豪車両がゆく

 大井川本線では、南海や近鉄といった大手私鉄で活躍していた歴史的な古豪車両が行き交う。タイムスリップしたようなレトロな風景がいまだに味わえる。

大井川鉄道・地名駅、日本一短いトンネル

 千頭の方を見ると、コンクリートの構造物が列車の門のように設置されていた。少しカーブがかかった上部には、髪の毛のように雑草が生い茂っているのが年月を感じさせる。

 かつては、この上を貨物用のロープウェイが通っていて、貨物の落下などからレールを保護するために、短いトンネルが造られたという。ロープウェイはとうの昔に廃止されたが、トンネルは撤去されずに残っている。今となっては無用の長物だが、「日本一短いトンネル」として有名で、地名駅の珍名物となっている。

木造駅舎と近くの発電所跡

大井川鉄道大井川本線・地名駅、古い木造駅舎

 地名駅の駅舎は、押縁下見の板張りで木製の窓枠を残した味わいある木造駅舎だ。駅の開業は1930年(昭和5年)7月16日だが、それ以来の駅舎だろうか…?

 左半分が駅舎からせり出した構造をしている。その周りは木の板の塀で覆われ、駅なのにまるで民家のような不思議な一角だ。かつての駅員宿直施設だったのだろうか?

 駅前は細い道が一本通るだけで狭いスペースでゆとりが無い。歪曲が出来るだけ出ないように全景を撮影するのに一苦労だった。

大井川鉄道・地名駅の木造駅舎、自転車置き場…?

 駅出入口横には軒が取り付けらた空間があった。自転車置き場だろうか?しかし、訪問時は何も置かれていくガランとしていた。

地名駅、プラットホームと周囲の風景

 駅周囲には茶畑が広がり、小高い山に囲まれている。お茶どころの静岡らしい風景だ。

 駅前に設置されたウォーキングマップを見ると、発電所だったレンガ造りの古い建物が残されているという。意外と近くのようなので、行ってみる事にした。

地名駅近く、レンガ造りの発電所跡と桜

 歩くこと7,8分、集落の外れに来ると、レンガ造りの建物が目に入った。これが例の発電所跡の裏側のようだ。2階建て位の高さのある大仰なレンガ造りの体には蔦が這い、丸窓には満開の桜が寄り添う。丸窓のガラスはほぼ割れ落ち、僅かなガラスと窓枠が残るだけだ。春の使者と廃れた建物が織り成す光景に、不思議と心が吸い寄せられた。

静岡県川根本町、東海パルプ地名発電所跡

 坂を下り発電所跡の正面にまわってみた。近くに説明板が設置されていた。このレンガ造りの建物「東海パルプ地名発電所」は、東海紙料(株) (現: 東海パルプ(株)) が自家発電用として明治43年(1940年)に建設したもので、ドイツ人設計師によるネオルネッサンス様式の建物だ。水力発電所で、今の周囲の風景からは想像しづらいが、往時はこの建物の下を水路が通っていた。その名残の円形の取水口の跡が今でも建物裏側に残っている。昭和6年(1931年)に使用停止、昭和27年(1951年)運用再開されたが、昭和36年(1961年)に廃止。その後、木工所として使われていたらしい。中をちょっと除いてみると、がらんとしもぬけの殻のような状態だった。現在では使われていないようだ。

大井川鉄道・地名駅、窓口跡

 地名発電所を見終え、駅に戻ってきた。出札口、手小荷物用の二つの窓口跡はほぼ原形を留めているが、ミニ文庫が置かれたり、地図などが掲示され塞がれた形になっている。現在、地名駅は簡易委託駅になっていて、駅前の商店で切符の販売をしている。

 待合室の「注意 熊の出没」と大きく赤い文字で書かれた貼紙が掲示されていた。一瞬ドキリとしたが、地名駅のある川根本町の話ではなく、旧金谷町内での話との事。熊が餌に困り人里に下りてくる事件が各地で頻発しているので、山に囲まれ自然が近いこの町に、熊がさまよい出てきても不思議ではないだろう。そのような熊達は畑も荒らすらしいが、大井川鉄道沿線に豊富にあるお茶の葉にはさすがに手出しはしないのだろうなぁ…。

大井川鉄道・地名駅の木造駅舎、ホーム側

 駅舎ホーム側も木の質感を留める造りで、緑の山や茶畑に囲まれ田舎の駅らしいムードが漂う。ホームはすれ違いが出来る1面2線の島式ホームだ。

大井川鉄道・地名駅、構内通路と木造建築物

 構内通路の向こうには、業務用と思しき木造の小屋があった。保線詰所か何かだろうか…?しかし寂れた雰囲気を漂わし、もう使われていなさそうだ。

大井川鉄道・地名駅の木造駅舎、駅事務室内部

 駅舎の旧駅事務室を覗いてみた。内部には人が出入している気配を感じない。木製デスクの上には業務用の黒電話があり、殺虫剤が三本、整然と並べられているのが妙に目を引いた。そして壁には、列車交換可能駅らしく、タブレットを入れる輪っぱが壁に掛けられたままだった。静寂に包まれた室内に掛けられている様子は、ひどくもの寂しげに映った…。

[2007年(平成19年) 4月訪問](静岡県榛原郡川根本町)

~◆レトロ駅舎カテゴリー: 三つ星 私鉄の三つ星駅舎

追記: 日本一短い鉄道トンネル、実際は?

 地名駅の日本一短いトンネルは、正式には「川根電力索道用保安隧道」という。長さは約11mだ。

 このトンネルの他に「日本一短い」と称する鉄道トンネルに、JR東日本・吾妻線の岩島駅‐川原湯温泉駅間にある樽沢トンネル(7.2m)、長良川鉄道の相生駅‐郡上八幡駅間にある中野トンネル(15.3m)がある。実際は全長を見てのとおり、吾妻線の樽沢トンネルだ。なので地名駅のトンネルは名誉的なタイトル、あるいは愛称と言った所だろう。

 しかし、樽沢トンネルは、八ッ場ダム工事に伴う吾妻線の線路移設により、2014年(平成26年)9月24日を最後に廃止となった。

 そこで地名駅の川根電力索道用保安隧道は、遂に名実共に日本一になったかと思われたが、新たにクローズアップされたのは、JR西日本・呉線の安芸川尻駅近くにある川尻トンネル。長さは8.7m。地名駅のトンネルの「日本一」は相変わらず名誉的なタイトルではあるが、変わった経緯で作られたトンネルは、珍しい鉄道風景として、人々に広く親しまれている事は確かだろう。