遠州森駅 (天竜浜名湖鉄道)~木造駅舎の昔のままの息遣いが味わい深い駅~



天浜線の主要駅

 国鉄二俣線から転換された第3セクター鉄道・天竜浜名湖鉄道(愛称: 天浜線)に数年ぶりに訪れた。前回は新所原駅から乗ったので、今回は掛川駅から乗ってみた。

天竜浜名湖鉄道・遠州森駅プラットホーム

 小さな駅が続いたが、9駅目の遠州森駅に着くと、長めの3線分のホームという配線だ。ホームに降り立つと「やっと大きな駅に来たなあ」と感じた。もっとも、3番ホームはレールが錆び、やや草生していて、使われている形跡は無く、今では短編成のレールバスが行き交うだけだが。

天竜浜名湖鉄道・遠州森駅、1番ホームの倉庫

 駅舎側のホームには駅本屋から軒が伸び、木の板で囲まれた倉庫になっている部分があった。古いいでたちで昔は駅の用品何かと入れていたのだろうが、今ではレンタサイクルを収めている。

天浜線・遠州森駅1番ホーム、フタ付きの構内通路階段

 天浜線では規模の大きい方の駅だが、跨線橋は無くレールを横切る構内通路が設けられている。

 構内通路への階段は、かつて乗降客が渡る必要が無い時はスライド式の鉄板のカバーで塞がれ、無闇に構内通路に降りられないようにしていたのだろう。他の駅でもこのようなカバーが残っているのが見られるのだが、一枚だけという事がほとんどだ。それに比べ遠州森駅のものは、幅が若干狭いながらも2枚となっていて、結果として広めだ。きっと広い階段が必要なほど、昔は利用客が多かったのだろう。

趣深い木造駅舎と待合室

天竜浜名湖鉄道・遠州森駅の木造駅舎、木のベンチが味わい深い待合室

 駅舎の待合室に入ると、古い木製ベンチが3脚置かれいるのが目に入った。そして壁際には作り付けの木製ベンチが据え付けられている。こちらも年季が入っていそうだ。今も有人駅として使われているため、駅はあちこち手入れされ壁は掲示物で賑やかだが、この使い込まれ古びたベンチの存在感は強い印象を与え、待合室を非常に印象深い空間にしている。

天浜線・遠州森駅、待合室の古い木製ベンチ

 その中の一つは肘掛側面に、動輪マークが入った古いベンチだ。肝心の動輪部分は欠けていたが、それでも脚がストレートではなくわざわざ掘り込まれていたり、座面から背もたれ部分は人の体形に合わせて微妙にカーブが入っていているなど、丹念に作り込まれているのに感心させられる。今ならPCで人が座る時の姿勢をシミュレートして…などというような事をするのかもしれない。しかし昔は、職人さんが座りやすさを考え工夫してこの形を造り上げたのだろう。

天竜浜名湖鉄道・遠州森駅の木造駅舎、出札口と手小荷物窓口跡

 貨物取り扱いはとうの昔に無くなり、手小荷物窓口跡は塞がれている。しかし有人駅だけあって、出札口は現役で使われている。一面ガラス張りに改修された出札口は掲示物で賑やかだ。

天浜線・遠州森駅の木造駅舎、改札口上の通風孔

 改札口上の通風孔が面白い形をしていた。こんな所にもちょっとした意匠を感じられるのがいい。

天浜線・遠州森駅、登録有形文化財となった木造駅舎

 駅舎正面に出てみた。古い外観をよく残したありふれた感じの木造駅舎だ。駅開業の1935年(昭和10年)以来の木造駅舎で、当初は遠江森駅(とおとうみもりえき)という駅名だった。現在の遠州森駅となったのは、二俣線から転換された1987年(昭和62年)の3月15日だ。

 多くの木造駅舎が壊され続けた中で、よくありふれた古いまま残ってくれたものだなと思う。遠州森駅では、この駅舎と上りホームが登録有形文化財になっている。

 右の土蔵風のものは電話ボックスだ。遠州森駅のある森町は土蔵が多く残る古い町並みがあり遠州の小京都と言われていて、それにちなんだものなのだろう。電話ボックスの影にはレトロな丸ポストが隠れている。

天浜線・遠州森駅、木造駅舎と駅前の建物

 駅舎左側には観光案内所の建物がある。三角屋根でメルヘンチックな建物は、以前は別の店が入っていたように記憶しているが、その店が撤退後に入居したのだろう。

 仕方ないとは言え、味わい深い木造駅舎に覆いかぶさるように建築物が建っているのは、正直、目障りに思う。土蔵風の電話ボックスでさえも演出過剰気味で、素朴な駅舎には似合わないような…。

天浜線・遠州森駅、人々で賑わうレトロな待合室

 遠州森駅は天浜線の駅の中で、利用者数が上位5位以内に入る駅だ。そのせいか列車の時間が近づくと、いつしか待合室は乗客で賑わっていた。古き良き趣を留めた駅の待合室に列車を待つ人々が集う…。その中に身を置いていると、まるで何十年前の駅風景の中に舞い戻ったような感覚さえ湧き上がる。活き活きとした木造駅舎に癒される心地だ。

天竜浜名湖鉄道・遠州森駅、列車を見守る駅員さん

 古い木造駅舎と、そして駅員さんに見守られながら、列車は遠州森駅を後にした。車両こそは新しいが、ここでも昔はあたりまえのようにあった光景がいまだに残っていた。

[2011年(平成23年) 5月訪問](静岡県周智郡森町)

~◆レトロ駅舎カテゴリー: 三つ星 旧国鉄の三つ星駅舎